- 財務諸表になんとなく抵抗がある…
- 結局、どこを見ればいいか分からない…
- 最低限の知識は知っておきたい!
今回はそんな方に向けて、基礎的な
- 財務諸表の見方・読み方
- 財務諸表の分析方法
について、経営学専攻で日商簿記2級保持者の私が、できるだけ噛み砕いて解説していきます!
まずはこの記事で基礎を知って、財務諸表に対する抵抗をなくしていきましょう!
財務諸表は企業を表す成績書
そもそもなぜ財務諸表が必要なのか、その目的や役割について前提として知っておきましょう。
財務諸表とは、企業の
お金を集める→投資する→利益を上げる
という活動の最終成績を数字で表した、主に3つの決算書類=財務三表 のことを指します。
すなわち、毎日コツコツつけていた取引の記録を、決算がくる度にまとめたものが 「財務諸表」 です。
なお念のため、決算とは、その時期の最終成績を算出して決定させる会計の一大イベントのことです。
1年に何回 決算を行うかは企業によって異なりますが、1年に最低でも1回、上場企業は最低4回 (四半期決算と言われる) 行う必要があります。
ではこの3つの成績表を 「誰のために作成するのか?」 というと、以下の3つの対象がいます。
- 資金提供者
→資金を提供してくれた人たちに対して、企業の成績について説明・公表する - 国・地方公共団体
→利益額や資産額を算出して、その金額の大きさに伴って税金を支払う - 経営者
→会社の成績から、会社をどうしていくかの意思決定を行う
①・②は企業の外部の人たち、③は企業の内部の人たちが対象ということで、財務諸表は内/外両方に会社の成績を知らせるためのものであることが分かります。
財務諸表の見方・読み方
先程、財務諸表は主に3つあると言いましたが、正確には4つある中の3つが 「財務三表」 と言われる最重要書類にあたります。
ここからは、この3つがそれぞれ 「どんなことを表すのか?」 について
お金を集める→投資する→利益を上げる
という企業の活動フローとの関係性を絡めながら解説していきます。
貸借対照表
貸借対照表 (Balance Sheet、B/S) は上の画像のように、左/右に分かれて記載され、それぞれ
- 【右】どうやってお金を集めたか
- 【左】そのお金が何に投資されているのか
というのを表しており、企業活動フローのうち
お金を集める→投資する→利益を上げる
という部分を示しています。
この貸借対照表の1番の特徴は、左右の金額が一致する点です。
もし一致しなければ、「集めてきたお金どこいった?」、「資産に投資したお金どこから持ってきた?」 という話になるからです 笑。
ではここからは、中身を見ていきましょう。
以下の図は、貸借対照表をよりシンプルに分かりやすくしたものです。
この図から、負債や純資産 (右) から得たお金を、資産 (左) に投入しているということが分かると思います。
負債と純資産は、
- 負債=他人資本
- 他人のお金なので、返済義務がある
- 例:銀行からの借入
- 純資産=自己資本
- 自社のお金なので、返済義務がない
- 例:株主からの資金、企業がこれまで稼いだ累計利益
というように、[自分のお金/他人のお金]、[返済義務がある/ない] で分かれます。
また、資産と負債にある流動か固定かというのは、「1年以内かどうか」 で判断します (=ワン・イヤー・ルール)。
ちなみに貸借対照表に記載してある金額は 「残高」 を表しており、例えば 「建物 20,000円」 というのは、「建物は残り20,000円分の価値が残っている」 ということを表しています。
「残高」 は英語で “balance”、そのため貸借対照表は英語で “Balance Sheet” と言います。
損益計算書
損益計算書 (Profit and Loss Statement、P/L) は、縦に一列並ぶとてもシンプルな構造で、
- 売上 (収益) はいくら出て
- そのうち費用はいくらで
- 利益はいくらか
というのを表しており、企業活動フローのうち
お金を集める→投資する→利益を上げる
という部分を示しています。
以下の図は、損益計算書をよりシンプルに分かりやすくしたものです。
おおもとの売上高から、該当する収益や費用を足し引きしていき、タイプの違う5つの利益を算出します。
- 売上総利益
→ 「売上高」 から、その売上を上げるために仕入れた商品の原価=「売上原価」 を引いた利益 - 営業利益=本業の営業活動による利益
→ 「①売上総利益」 から、人件費や旅費交通費、光熱費など営業活動にかかる費用=「販売費及び一般管理費」 を引いた利益 - 経常利益=本業と本業以外の営業活動による利益
→ 「②営業利益」 に、預貯金による受取利息など本業以外の営業活動による収益=「営業外収益」 を足して、借入金の支払利息など本業以外の営業活動による費用=「営業外費用」 を引いた利益 - 税引き前当期純利益=税金を支払う前の利益
→ 「③経常利益」 に、土地を売って出た利益など特別な要因でその期にだけ発生した利益=「特別利益」 を足して、建物の火災による損失など特別な要因でその期にだけ発生した損失=「特別損失」 を引いた利益 - (税引き後) 当期純利益=税金を支払った後の利益
→ 「④税引き前当期純利益」 から、「法人税・住民税・事業税」 を引いた利益
この5つの利益の中でも特に重要視されるのが、本業と本業以外の営業活動による利益の合算である ③経常利益で、「ケイツネ」 と呼ばれています。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書 (Cash Flow Statement、C/F) は、縦に大きく3つに分かれ、企業活動による3種類の現金の動き (出入り) を表しています。
- 財務活動によるキャッシュフロー
- 投資活動によるキャッシュフロー
- 営業活動によるキャッシュフロー
この3種類の企業活動は、まさしく企業活動フローの3つ
お金を集める(財務活動)→投資する(投資活動)→利益を上げる(営業活動)
であるため、キャッシュフロー計算書は、企業活動全体の現金の出入りを表していると言えます。
また 「現金の出入りがあった結果、最終的にいくら現金が残っているか」 という現金の残高も示されています。
この後説明する 「財務諸表の分析方法」 では、貸借対照表と損益計算書が対象なので、キャッシュフロー計算書の分析方法に関しては、ここでまとめて解説します。↓
3つのキャッシュフローの特性は、それぞれ以下のようになっています。
- 営業活動キャッシュフロー
- 本業が儲かればお金が入り、損失を出せばお金が出ていく
- 合計が大きければ大きいほど、本業によって利益が出ている
- 合計がマイナスであれば業績不振、あるいは売上を上げていても現金の回収ができていない可能性が高い
- 投資活動キャッシュフロー
- 資産を売ればお金が入り、投資をすればお金は出ていく
- そのため、合計がプラスであれば資産を売却して立て直そうとしており、マイナスであれば投資を積極的に行っている可能性が高い
- 財務活動キャッシュフロー
- 資金調達をすればお金が入り、株主に利益を還元したり借入金を返済すればお金が出ていく
- 合計がプラスなら積極的に資金調達を行っており、マイナスであれば資金提供者に還元・返済している可能性が高い
そして、3つのキャッシュフローの合計値のプラス/マイナスの関係性によって、企業の業績や成長段階を分析することができます。
成長段階・業績 | 営業C/F | 投資C/F | 財務C/F |
成熟型 (優秀型) |
+ 利益〇 |
- 積極投資 |
- 還元・返済 |
成長型 (積極投資型) |
+ 利益〇 |
- 積極投資 |
+ 資金調達 |
出直し型 (返済優先型) |
+ 利益〇 |
+ 資産売却 |
- (還元・)返済 |
一発逆転期待型 (スタートアップ型) |
- 利益✖ |
- 積極投資 |
+ 資金調達 |
最後のあがき型 (倒産寸前?型) |
- 利益✖ |
+ 資産売却 |
+ 資金調達 |
以上がキャッシュフローの分析方法です。
分析方法を紹介し終えたところで、キャッシュフロー計算書に関する 「よくある疑問」 である
貸借対照表と損益計算書で、企業活動フローの3つ
お金を集める→投資する→利益を上げる
をすべて表すことができているにも関わらず、なぜキャッシュフロー計算書が必要なのか?
というものを解消しておきます。
その解答は、
取引によっては、取引が発生した日と、実際にお金が出入りする日が異なることがあるから
です。
例えば、架空の企業A社を例に挙げると、
- A社の事業年度は 1月~12月 (12月31日が決算日)
- 12月15日に、A社は商品を5,000円で得意先に売って、代金は掛け (後日受取) とした
- 支払期限は 1月31日 で、1月31日に得意先から代金を受け取った
という取引を行った場合、12月15日に収益 (=売掛金=後日お金を受け取る権利) は計上されていますが、実際に5,000円が入ってくるのはその事業年度後の1月末です。
そのため
決算時点で、収益にはなっているけど、手元にはお金がない
→この取引は損益計算書には反映されているけど、キャッシュフロー計算書には反映されていない
ということになります。
このようにキャッシュフロー計算書は、貸借対照表や損益計算書では表せない 「企業には、すぐ使えるお金 (現金) はいくらあるのか」 というのを表しているのです。
ここまで財務三表の基礎について解説してきましたが、もう少し踏み込んだことも知りたいという方は『財務3表一体理解法』という本がおすすめです。
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財務三表それぞれをバラバラに学ぶと、会計の全体像を掴むのは難しいですが、3つを一体して学ぶと驚くほど会計のことが分かるようになります。
会計本を何冊も読むくらいなら、この本を読んで実際の決算と照らし合わせてみるのが一番の近道です!
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全体感を理解することを目的にしているため
状況によっては原則を飛び越えて理解を優先する点
また、その説明の具合がとてもよいです
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口コミでも非常に評価が高いので、財務諸表を学びたい方はぜひチェックしてみてください!
財務諸表の分析方法
(キャッシュフロー計算書は先に紹介しましたが、) いよいよ企業の 「分析方法」 に入っていきます。
企業分析の視点となるものは、「安全性」 ・ 「効率性」 ・ 「収益性」 ・ 「成長性」 の4つで、財務諸表 (特に貸借対照表・祖損益計算書) から、それらを表す指標を計算します。
またその指標に対しての良し悪しの判断は、
- 理論値や目標値と比較する
- 当期の数値と、過年度の数値を比較する
- 他企業の数値と比較する
といった手法で行います。
今回は特に重視すべき 「安全性」 と 「収益性」 を表す重要な指標を、それぞれ解説していきます。
(なお 「成長性」 は、売上や利益の年推移などで簡単に求めることができます)
安全性を表す指標4つ
安全性とは、簡単に言えば 「支払いのための資金に余裕があるか」 ということを示します。
企業の安全性を表す主な指標は、主に以下の4つです。
- 流動比率=流動資産/流動負債
- 当座比率=当座資産/流動負債
- 自己資本比率=自己資本/総資産
- 固定比率=固定資産/自己資本
なおこの4つはすべて、貸借対照表の数値を基に計算します。
① 流動比率=流動資産/流動負債
流動比率は、「1年以内に現金化できる資産が、1年以内に返済すべき負債をどれだけ上回っているか」 を表します。
例えば上図の場合、流動比率は 「小/大」 になるので 100%以下 になります。
この場合、1年以内に返済しなければならない借金 (流動負債) が、1年以内に現金化する資産 (流動資産) よりも大きいので、資産繰りが危険であることが読み取れます。
逆に上図のように、流動資産が流動負債を上回り流動比率が100%を上回っていると、比較的安定した資金繰りである、と言いたいところですが、実際は150%以上 (目安) でないと安定しているとは言いがたいようです。
② 当座比率=当座資産/流動負債
これは先程の流動比率と似ていて、分子の 「流動資産」 が 「当座資産」 になっただけです。
「流動資産の中でも特に現金化されやすい 当座資産 が流動負債をどれだけ上回っているのか」 というのを表しています。
当座資産とは、流動資産の項目にある
- 現金預金
=現金や、銀行に預けているお金 - 売上債権
=受取手形と売掛金のこと
→どちらも掛け取引の代金をもらう権利のことだが、違いは 「手形」 という証明書を持っているか否か - 有価証券
=株式や社債
の3つです。
当座比率が100%以上 (目安) だと、その企業は安定していると言えます。
③ 自己資本比率=自己資本/総資産
自己資本比率は、「集めてきたすべてのお金 (=負債+自己資本) のうち、返済義務のない自己資本の割合はどれだけあるか」 というのを表しています。
目安としては 「50%」、すなわち下図のように自己資本が半分以上であれば、長期的に安定すると言われています。
逆に下図のように、他人資本が大きく上回ると、返済余力が低く安定していないと言えるでしょう。
しかし、少し踏み込んだ話になりますが、他人資本である借入金を利用した方が、より少ない自己資本で多額の投資ができ、大きな収益を上げることができます。
例えば、「500万を投資すると800万円の収益が返ってくるプロジェクト」 があるとして、借入金を使わないときと使うときを比較してみると、
- 投資額500万円は、すべて自己資本
→ 利益率=300万円/500万円=60% - 投資額500万円は、自己資本250万円+借入金250万円
→ 利益率=300万円/250万円=120%
このように借入金を使った方がROE=自己資本利益率 (収益性のところで解説します!!) が高くなります。
このように借金をした方が、より効率的に収益を上げられることを 「レバレッジ効果」 と言います。
すなわち自己資本比率が高いことは、安全性が◎であることも、資金の効率性が△であることも示しているわけです。
④ 固定比率=固定資産/自己資本
固定比率は、「固定資産に投資するために集めた資金が、返済義務のない自己資本でどれだけまかなわれているか」 というのを表します。
固定資産は、1年以内に現金化しない=長期的に使用する=投資に対するリターンが返ってくるのは遅い 資産なので、できるだけ返済義務のない自己資本でまかなうことが望ましいです。
すなわち、固定資産をすべて自己資本でまかなえている状態が理想とされ、下図のように固定比率が100%以下 (固定資産<自己資本) であれば、安定していると言えます。
一方で、下図のように固定資産が上回っている状態だと、安定とは言いがたいでしょう。
収益性を表す指標3つ
収益性とは、「集めたお金や持っている資産を、どれだけ有効に活用して、売上や利益、現金の獲得につなげているか」 ということを示します。
企業の効率性を表す主な指標は、主に以下の3つです。
- 売上高利益率=利益/売上高
- ROA(総資産利益率)=当期純利益/総資産
- ROE(自己資本利益率)=当期純利益/自己資本
なおこの3つはすべて、貸借対照表と損益計算書の数値を基に計算します。
① 売上高利益率=利益/売上高
売上高利益率は、「売上高のうち、どれだけ利益が占めているか」 というのを表します。
大きな売上を上げていても、多大なコストがかかっていて利益が少なければ、効率は悪いと言えます。
逆に少ない売上でも、コストを抑えて大きな利益を上げているのであれば、効率がいいと言えます。
企業にとっては、売上も大事ですが、それ以上に翌年以降の企業の資本となる利益の方が重視されるので、当然 利益率も大事になってきます。
計算式の 「利益」 に当たる部分は、「税引き前当期純利益」 を除く4つの利益のいずれかを当てはめます。
呼び方はそれぞれ、以下の通りです。
- 売上高売上総利益率 (=粗利率)
- 売上高営業利益率
- 売上高経常利益率
- 売上高当期純利益率
利益率の目安は、業界・業種によって大きく異なります。
例えば、サービス業の平均は約4%なのに対し、不動産業の平均は約7%です。
実際に分析するときは、「業種 売上高__利益率 平均」 で検索して、目安を調べてみましょう。
② ROA(総資産利益率)=当期純利益/総資産
ROA (Return On Assets=総資産利益率) は、「総資産の額に対して、どれだけの利益を上げているか」 を表します。
ROAも当然、業界・業種によって異なりますが、5%が投資家たちのひとつの目安で、それを超えると優秀と判断されることが多いです。
なお世界的に有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏は、15%を目安にしているそうです。
③ ROE(自己資本利益率)=当期純利益/自己資本
ROE (Return on Equity=自己資本利益率) は、②ROAの分母の 「総資産」 が 「自己資本」 に変わったもので、「自己資本の額に対して、どれだけの利益を上げているか」 を表します。
先程紹介した 「レバレッジ効果」 のところで出てきましたね。
業界・業種によって異なりますが、ROEの優秀な値の目安は、だいたい15~20%です (平均は約10%)。
20%を超えると、かなり優秀と言えます。
まとめ
お疲れ様でした。
今回解説した見方・読み方・分析の 「基礎」 というのは本当に大切で、簿記を持っている人でも意外と理解していないことが多いです。
逆にこの基礎が分かれば、簿記を持っている人たちよりも、より財務諸表や企業会計の本質を理解できていることになります。
今回難しいと感じた方でも、財務諸表や企業会計は、時間をかければ意外とすんなり理解することができるものなので、ぜひ諦めずに頑張って下さい!
最後に、途中で紹介したおすすめの入門書のリンクを貼って終わりたいと思います。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
\簿記を勉強するよりも財務諸表が分かる!/
出典:Amazon